概要
上野天神祭は、三重県伊賀市に鎮座する上野天神宮(菅原神社)の秋の例祭であり、国の重要無形民俗文化財に指定され、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている大祭である。約400年の伝統を誇り、毎年10月25日に直近の日曜日を中心に、神輿・鬼行列・だんじりが市内を巡行する一大行事である。祭礼の特色として、神輿に供奉する「鬼行列」と「楼車(だんじり)」が同時に巡行する点が挙げられ、京都の祇園祭などとは異なる独自の形態を保っている。
この祭礼は、菅原道真公を祀る上野天神宮の神幸祭として発展してきた。江戸時代前期の万治3年(1660年)に藤堂藩の許可を得て再興され、寛文2年(1662年)には神輿が城の丸之内(城内)を渡御するようになった。その後、町人たちが趣向を凝らした出し物を競い合い、現在見られるような華麗な行列が形成されていった。祭礼期間中は市街地全体が祭りの雰囲気に包まれ、地元住民だけでなく県内外から多くの見物客が訪れる。
歴史・由来
上野天神祭の起源は、江戸時代前期の万治3年(1660年)旧暦9月に遡る。記録によれば、この年に「天神祭礼再興」の伺いが藤堂藩に出され、許可を得て祭礼が行われたことが確認されている。ただし、それ以前にも祭礼が存在していたとされ、いったん中絶したものを再興したという位置づけである。再興から2年後の寛文2年(1662年)には、神輿が丸之内(城内)を渡御するようになり、藩主が見物することもあったという。
鬼行列の成立は、元禄時代(1688年~1704年)頃と推定されている。記録によれば、元禄3年(1690年)の服部土芳の『蓑虫庵集』に「神事のねり物」「増長天」「面」という記述があり、これが現在の鬼行列の「役行者列」に登場する四天の一つ「増長天」であると考えられている。鬼行列の元になったのは、大峰山への入峰(修行)の様子を模したもので、役行者が鬼を従者とし、多くの鬼を使役したという伝承に基づいている。
一方、楼車(だんじり)の登場は、18世紀後半の宝暦年間(1751年~1764年)頃と考えられている。宝暦6年(1756年)には向島町が「花鉾」を、宝暦9年(1759年)には中町が「其神山」という出し物を出した記録がある。これらの山鉾が徐々に発展し、文化・文政期(1804年~1830年)に現在のようなだんじりの形態が固定化したと言われている。天保11年(1840年)の版画『伊賀上野天満宮祭礼九月廿五日行列略記』には、ほぼ現在と同様の鬼行列や楼車の姿が描かれている。
明治時代に入ると、明治35年(1902年)には菅公千年大祭が行われ、鬼行列や楼車に加えて三筋町以外の町々からも様々な出し物が出され、非常に盛大な祭礼となった。平成14年(2002年)2月12日には「上野天神祭のダンジリ行事」として国の重要無形民俗文化財に指定され、さらに平成28年(2016年)にはユネスコ無形文化遺産「山・鉾・屋台行事」の一つとして登録された。このユネスコ登録を契機に、祭礼の日程も平成29年(2017年)から10月25日までの直近の日曜日を中心とした日程に変更されている。
見どころ
鬼行列の「役行者列」 上野天神祭の最大の見どころの一つが鬼行列である。相生町・紺屋町・三之西町の三つの町(総称「三鬼会」)から出される「役行者列」は、修験道の開祖である役行者が大峰山に入峰する様子を模したものである。行列の先頭には日本最大とされる約120kg(三十余貫)の大御幣が立ち、その後ろに悪鬼・八天・四天・役行者・先達・ひょろつき鬼などが続く。この行列は、修験道の厳粛な儀式を彷彿とさせる重厚な雰囲気を漂わせている。
鬼行列の「鎮西八郎為朝列」 徳居町から出される「鎮西八郎為朝列」は、源為朝が鬼退治を終えて凱旋する様子を模した行列である。寛政10年(1798年)頃に成立したとされ、藤堂藩の重臣安並氏が家に伝わる為朝に関する由緒を練物に仕立てたことが始まりとされている。為朝が鬼を従える趣向は、勇壮でありながらもどこかユーモラスな雰囲気を醸し出し、見物客の笑いを誘う。鬼の仮装をした参加者たちが跳ね回る姿は、祭りの華やかさを一層引き立てている。
「ひょろつき鬼」の妙技 鬼行列の名物として知られる「ひょろつき鬼」は、釣鐘・二本の大斧・笈を背負った山伏姿の鬼が、独特の動きで練り歩く姿である。この「ひょろつき」と称される動きは、大峰入峰の儀式で用いられる重要な法具を模したもので、一本の長い竹の先に紙垂を付けたものを振り回しながら歩く。ひょろつき鬼のユニークな動きは、修験道の厳しさと祭りの楽しさを同時に表現しており、多くの観客の注目を集める。特に子どもから大人まで幅広い年齢層に人気がある。
9基の楼車(だんじり) 本町筋・二之町筋の九つの町からそれぞれ1基ずつ、計9基の楼車が巡行する。だんじりの名称は、「紫鱗」(上野魚町)、「桐本」(上野東町)、「鉄英剣鉾」(上野向島町)、「其神山・葵鉾」(上野中町)、「三明」(上野福居町)、「小簑山」(上野小玉町)、「薙刀鉾」(上野新町)、「二東・月鉾」(上野鍛冶町)、「花冠」(上野西町)である。だんじりの上では、祇園祭に由来するとされるお囃子が奏でられ、笛・鐘・太鼓の音が町中に響き渡る。各町の趣向を凝らした装飾や彫刻は、祭りの華やかさを象徴している。
祭りの日程と鬮取式 上野天神祭の巡行順は、毎年9月9日に上野天神宮で行われる「鬮取式(くじとりしき)」で決定される。この鬮取式を境に、各町は本格的な祭りの準備に入り、だんじりの練習にも熱が入る。鬮取式の結果は各町の祭りへの意気込みに直結するため、その場の雰囲気は緊迫感に満ちている。翌年の再戦を誓い合う町々の様子も、祭りの一つの風物詩となっている。
宵山と足揃えの儀 本祭の前日には「足揃えの儀」が行われ、だんじりが各町内を巡行し、鬼行列も相生町から三之町筋を練る。この日は、本番を前にした祭りの熱気が日増しに高まる重要な日である。宵山の夜には、提灯で飾られただんじりが幻想的な雰囲気を醸し出し、昼間とは異なる美しさを見せる。夜の巡行ならではの趣が訪れる人々を魅了する。
神幸祭の大巡行 本祭である神幸祭では、上野天神宮の2基の神輿(天満宮神輿・九社宮神輿)を先頭に、鬼行列、印、だんじりが続く長蛇の列が市内を巡行する。神輿の渡御は、東旅所(上野車坂町)から本町通りを巡幸し、西旅所(上野幸坂町)で御昼祭を執り行い、午後には二の町通り、三の町通りを巡幸して本社へ還る。祭りの最高潮を迎えるこの日は、伊賀一円から十数万人の参詣者が訪れ、市中は歩行者天国となる。露店が軒を連ね、城下町伊賀上野は一年で最も賑わいを見せる。
開催情報・アクセス
- 正式名称:上野天神祭(上野天神祭の鬼・だんじり行事)
- 開催日:毎年10月25日までの直近の日曜日を中心に3日間(宵々山・宵山・本祭)。ただし、例大祭は従来どおり10月25日。最新の開催日程・実施可否は公式サイトで確認すること。
- 主催:上野天神宮(菅原神社)/上野文化美術保存会
- 交通アクセス(鉄道):近鉄大阪線「伊賀神戸」駅またはJR関西本線「伊賀上野」駅で伊賀鉄道に乗り換え、「上野市」駅下車。駅から祭礼会場までは徒歩圏内。
- 交通アクセス(高速バス):名古屋から三重交通の高速バスが運行されており、名鉄バスセンターから約90分で伊賀上野に到着する。大阪方面からも近鉄電車の利用が便利である。
- 交通アクセス(自家用車):名阪国道「中瀬」ICまたは「上野」ICから市中心部まで約10分。ただし、祭礼中は大規模な交通規制が敷かれるため、なるべく公共交通機関を利用すること。駐車場は限られているため、早めの到着か事前の駐車場確保が推奨される。
周辺情報
伊賀上野のシンボルである伊賀上野城は、上野天神祭の舞台となる地域の中核に位置している。この城は藤堂高虎によって築城された名城であり、城壁の高さは日本一と言われる。祭礼期間中、城内から眺める行列の巡行は絶好のフォトスポットであり、紅葉に映える城と祭りのコントラストは来場者を魅了する。また、城内には忍者に関する展示もあり、伊賀忍者の里としての歴史も同時に体感できる。
上野天神祭の歴史をより深く知りたい方には、「だんじり会館」の訪問がお勧めである。この施設では、実際に使用されただんじり3基と鬼行列が再現展示されており、祭りの迫力を一年中体感できる。館内には詳細な解説パネルも設置されており、初めて訪れる方でも祭りの背景を理解しやすい。伊賀市の公式観光サイト(伊賀ぶらり旅)でも、祭りの最新情報や周辺観光スポットが紹介されている。
伊賀地域は、忍者発祥の地としても世界的に有名であり、伊賀流忍者博物館や伊賀上野城に隣接する忍者屋敷など、忍者文化に触れられる施設が多数存在する。また、俳聖・松尾芭蕉の生誕地としても知られ、芭蕉翁記念館や芭蕉の遺品を収蔵する萬福寺なども見どころである。祭りの前後には、伊賀の名物料理である伊賀牛や、地酒の蔵元巡りを楽しむこともでき、一日中伊賀の文化を堪能できる。
関連情報
- 上野天神祭 公式サイト: - 行事日程や交通規制の最新情報が掲載されている。
- 上野文化美術保存会:祭礼の運営団体。問い合わせは info@ueno-tenjin-matsuri.com まで。
- 伊賀上野観光協会:http://www.igaueno.net/ - 観光情報や交通アクセスの詳細が確認できる。電話 0595-26-7788。
- 伊賀市 公式観光サイト「伊賀ぶらり旅」:上野天神祭の特集ページあり。
- 国の重要無形民俗文化財:平成14年(2002年)2月12日指定。
- ユネスコ無形文化遺産:平成28年(2016年)登録。33件の「山・鉾・屋台行事」の一つ。
- だんじり会館:実際のだんじりや鬼行列の展示を行っている施設。
- 公式Facebook:こぼれ話や天候による祭りの開催状況が随時配信されている。
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出典・関連リンク
- 📚 出典: Wikipedia, Wikidata (CC BY-SA 4.0)
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- 🔁 English version: Ueno Tenjin Festival