多度祭(たどまつり)は、三重県桑名市多度町に鎮座する多度大社で、毎年五月四日・五日に斎行される例祭です。その中心的な神事である「上げ馬神事(あげうましんじ)」は、地元の若者が馬に騎乗して急な坂を一気に駆け上がる勇壮な行事として全国に知られ、多くの見物客を集めてきました。

上げ馬神事の起源は約七百年前の南北朝時代に遡るとされ、長い歴史のなかで受け継がれてきた伝統行事です。昭和五十三年(一九七八年)二月七日には三重県の無形民俗文化財に指定されました。馬と若者が急坂に挑む姿は、北伊勢地方の初夏を代表する光景として親しまれ、多度大社の信仰と地域の暮らしが結びついた祭りとして今日まで続いています。

歴史と由来

多度大社は、天照大神の御子神である天津彦根命(あまつひこねのみこと)を主祭神とする古社で、古くから北伊勢地方の総鎮守として厚い信仰を集めてきました。伊勢神宮と深い関わりを持つ神社とされ、「お伊勢参らばお多度もかけよ、お多度かけねば片参り」と謡われるほど、伊勢参宮と結びついて多くの参拝者を迎えてきた歴史があります。

多度祭の中心をなす上げ馬神事の起源は、約七百年前の南北朝時代にさかのぼると伝えられています。地域の農耕と深く結びついた神事であり、若者が馬とともに急坂に挑むという形で、豊作や地域の安寧への祈りが表現されてきました。武を尊ぶ気風と農耕儀礼が融合したこの神事は、中世以来の地域社会のありようを今に伝えるものとして重視されてきました。

かつての上げ馬神事では、坂の最上部に土壁が築かれ、馬がその土壁を越えた回数によって、その年の農作物の豊凶を占うという習わしがありました。坂を駆け上がり、壁を越えられるかどうかに人々が固唾をのんで見守るさまは、この神事の最大の見どころとして長く親しまれてきました。神事を担うのは神児(しんじ)と呼ばれる若者を中心とした担い手で、地域を挙げてこの祭りを支えてきました。

近年、この神事のあり方をめぐっては動物福祉の観点からの議論が起こり、二〇二四年(令和六年)以降は神事のスタイルが見直されることとなりました。坂の最上部の土壁を廃止するなどの変更が行われ、伝統を受け継ぎながらも時代の要請に応える形で祭りは続けられています。長い歴史を持つ神事が現代のなかでどのように継承されていくかという課題に、地域と多度大社が向き合っている状況にあります。

見どころ

坂を駆け上がる上げ馬 多度祭最大の見どころは、やはり上げ馬神事です。若者が騎乗した馬が、勢いよく助走をつけて急な坂を一気に駆け上がる瞬間は、見る者の緊張と興奮を最高潮に高めます。馬と乗り手が一体となって坂に挑む姿には、南北朝時代以来受け継がれてきた勇壮さが凝縮されています。

神児と担い手たちの奉仕 神事を担うのは、神児と呼ばれる若者を中心とした地域の担い手たちです。祭りに向けて心身を整え、神事の主役として奉仕する若者たちの姿には、地域が総出でこの伝統を支えてきた歴史が表れています。世代を超えて受け継がれる担い手の存在が、祭りの根幹を成しています。

五月四日・五日の二日間の祭事 多度祭は五月四日・五日の二日間にわたって営まれます。例祭前日祭に始まり、騎手の乗込、馬場乗、須賀馬場乗込など、次第に沿って多彩な行事が展開されます。二日間を通じて祭りが高まっていく構成は、単発の神事にとどまらない祭礼としての厚みを感じさせます。

北伊勢の初夏を彩る雰囲気 新緑の五月、多度大社の境内とその周辺は祭りの熱気に包まれます。北伊勢地方に初夏の訪れを告げるこの祭りには、地域内外から多くの人々が訪れ、坂の周囲には見物客がひしめきます。歴史ある社を舞台に繰り広げられる神事の高揚感は、この季節ならではのものです。

伝統と現代の交差 二〇二四年以降のスタイル変更を経て、多度祭は伝統の継承と現代的な配慮の両立という新たな段階を迎えています。長く続いてきた神事が形を変えながらも守り継がれていく過程そのものが、いま祭りを訪れる人にとって注目すべき点となっています。変化のなかで受け継がれる祈りの本質を感じ取ることができます。

多度大社の信仰の場 上げ馬神事の舞台となる多度大社は、北伊勢総鎮守として広く信仰を集める古社です。祭りの日には神事とともに神社そのものの荘厳な空気に触れることができ、勇壮な神事と静謐な社の対比が、祭りの体験に深みを与えています。

開催情報

  • 開催日: 毎年五月四日・五日
  • 会場: 多度大社(三重県桑名市多度町)
  • 中心神事: 上げ馬神事(若者が騎乗し急坂を駆け上がる)
  • 主な行事: 例祭前日祭、騎手乗込、馬場乗、須賀馬場乗込ほか
  • 文化財指定: 三重県無形民俗文化財(昭和五十三年=一九七八年二月七日指定)
  • 留意点: 二〇二四年(令和六年)以降、動物福祉の観点から神事のスタイルが見直されている

周辺の関連する行事と場所

多度祭の舞台となる多度大社は、北伊勢地方の総鎮守として知られる古社です。主祭神の天津彦根命は天照大神の御子神とされ、伊勢神宮との深い結びつきから、伊勢参宮とあわせて参拝されてきた歴史があります。祭りの日以外にも多くの参拝者が訪れる名社で、多度祭とあわせて社そのものの歴史を味わうことができます。

多度大社の周辺は多度山の豊かな自然に恵まれた地域で、境内には清流が流れ、四季折々の景観が楽しめます。祭りの季節である五月は新緑が美しく、勇壮な神事と自然の彩りをあわせて堪能できる時期です。多度山への登山やハイキングと組み合わせて訪れる人も少なくありません。

多度大社が位置する桑名市は、木曽三川の河口に開けた歴史ある町で、東海道の宿場町としても栄えました。桑名の焼き蛤をはじめとする食文化や、揖斐川・長良川沿いの景観など、周辺には見どころが多くあります。多度祭を訪れる際には、こうした桑名の歴史と風土もあわせて楽しむことができます。

関連情報

  • 開催月: 五月(毎年五月四日・五日)
  • 都道府県・地域: 三重県桑名市・東海(近畿)地方
  • 主催神社: 多度大社(北伊勢総鎮守・主祭神は天津彦根命)
  • 起源: 上げ馬神事は約七百年前の南北朝時代に遡るとされる
  • 文化財: 三重県無形民俗文化財(昭和五十三年指定)
  • 特色: 若者が騎乗し急坂を駆け上がる上げ馬神事で知られる。二〇二四年以降スタイルを見直し

出典・関連リンク

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