概要

須成祭(すなりまつり)は、愛知県海部郡蟹江町須成に鎮座する冨吉建速神社(とみよしたけはやじんじゃ)・八剱社(はちけんしゃ)の例祭で、蟹江川を舞台に船を浮かべて行われる川祭りです。疫病退散を祈願する牛頭天王(ごずてんのう)信仰を背景に、約400年の歴史を伝えてきました。最大の見どころは、8月第1土曜日の宵祭に多くの提灯を灯した「巻藁船(まきわらぶね)」が、翌日曜日の朝祭に人形を乗せた「車楽船(だんじりぶね)」が、祭囃子を奏でながら蟹江川をゆっくりと上っていく幻想的・華麗な光景です。

祭りは「車楽船行事」と「神葭流し(みよしながし)」という二つの行事を中心に構成され、最初の行事から最後の行事まで約100日を要することから「100日祭り」とも呼ばれています。伝統を守って一連の行事が受け継がれてきたことが高く評価され、2012年に国の重要無形民俗文化財に指定、2016年には「山・鉾・屋台行事」の一つとしてユネスコ無形文化遺産に登録されました。全国的にも知られる尾張の代表的な川祭りとして、多くの見物客を集めています。

歴史と由来

須成祭が行われる冨吉建速神社・八剱社は、二社から成り「須成神社」とも呼ばれる須成地区の氏神です。社伝によれば天平五年(733年)に行基菩薩により蟹江山常楽寺の鎮守として創建され、寿永元年(1182年)に木曾義仲によって修復、天文十七年(1548年)に織田信長により再建されたと伝えられています。本殿は両社とも室町時代の建築で、昭和28年に本殿と棟札が国の重要文化財に指定されました。冨吉建速神社の祭神は素盞鳴尊、八剱社の祭神は草薙神霊と熱田五神です。

須成祭そのものは、この冨吉建速神社・八剱社の祭礼として400年あまりの歴史があるといわれ、疫病退散と五穀豊穣を祈願して行われてきました。江戸時代にはすでに川に船を浮かべる祭りとして営まれており、牛頭天王を疫神として祀り、その霊力によって災厄を鎮めようとする天王信仰が祭りの根底に流れています。素盞鳴尊を祭神とすることも、この天王信仰と深く結びついています。

祭りの中心をなすのが「車楽船行事」と「神葭流し」です。車楽船行事では8月第1土曜日に宵祭、翌日曜日に朝祭が行われ、飾橋から天王橋まで蟹江川を祭船が上ります。一方の神葭流しは、川に茂るヨシをご神体としてまつり、これに一年の穢れや災厄を封じ込めて流し、人々の豊かな生活を祈願する行事で、疫病退散を願う天王信仰を象徴する神事です。この二つの行事が組み合わさることで、須成祭は華やかさと厳粛さを併せ持つ祭りとなっています。

一連の行事は長い時間をかけて営まれます。朝祭の1週間前には、白装束の若者が手こぎ舟で蟹江川河口へ下り、ご神体をつくるヨシを刈る「葭刈(よしかり)」が行われます。刈ったヨシをご神体にして祀り、朝祭の翌日早朝に災厄を託して流すのが神葭流しです。古くは実際に川へ放流していましたが、現在は川に浮かべたのち「棚上り」で神社の棚に祀り、75日後に「棚下し」で下ろして燃やし、すべての行事が終わります。この長大な祭事の連なりが「100日祭り」の名の由来となっています。

見どころ

提灯を灯した宵祭の巻藁船
須成祭で最も幻想的なのが、8月第1土曜日の宵祭で蟹江川を上る巻藁船です。無数の提灯を半円形に飾り付けた船が、暗い川面を祭囃子とともにゆっくりと進む姿は息をのむ美しさで、水面に映る灯りが夜の蟹江を彩ります。多くの見物客がこの光景を目当てに訪れる、須成祭を象徴する場面です。

暦を表す提灯の数
巻藁船を飾る提灯の数には意味が込められています。半円に飾られる巻藁提灯は1年の日数を表す365個、中心の「如意竹」に縦に並ぶ提灯は1年の月数の12個(閏年は13個)、船の全面のほおずき提灯は1月の日数の30個が灯されます。ひとつひとつの灯りが暦を象徴しており、船全体が一年の時の流れを映し出す仕掛けになっています。

人形を乗せた朝祭の車楽船
翌日曜日の朝祭では、宵祭の巻藁船とは趣を変え、男女の神様の人形を乗せた車楽船が登場します。梅花や桜花で飾られた祭船が稚児を乗せ、祭囃子を奏でながら天王橋を目指す様子は、昼の光の中で華やかさが際立ちます。宵と朝で異なる船の表情を味わえるのも、この祭りならではの魅力です。

災厄を託す神葭流し
車楽船の華やかさと対をなすのが、静かに営まれる神葭流しです。川のヨシをご神体とし、一年の穢れと災厄を封じ込めて流すこの神事には、疫病退散を願う天王信仰の核心が宿っています。棚上り・棚下しといった長い過程を経て行われる点に、須成祭の信仰の深さがよく表れています。

祭船のためだけに上がる御葭橋
須成祭では、巻藁船や車楽船が通るときだけ橋桁を持ち上げる珍しい「巻上げ橋」の御葭橋が見どころの一つです。祭船が近づくと橋が上がり、船が通り過ぎるとまた下りるこの仕掛けは、祭りのために町のかたちそのものが工夫されてきたことを物語っています。

約100日にわたる祭事の連なり
須成祭は宵祭・朝祭の二日だけの祭りではありません。7月初旬から10月下旬にかけて約100日にわたり一連の神事が続き、葭刈から神葭流し、棚上り、そして75日後の棚下しへと祭りが受け継がれていきます。この長い時間の流れそのものが須成祭の本質であり、地域が祭りとともに一年を刻んでいることを感じさせます。

開催情報・アクセス

  • 開催日:車楽船行事は毎年8月第1土曜日に宵祭、翌日曜日に朝祭(祭事全体は7月初旬〜10月下旬の約100日間)
  • 宵祭:19時30分頃〜(提灯を灯した巻藁船が蟹江川を上る)
  • 朝祭:9時頃〜(人形を乗せた車楽船が上る)
  • 場所:冨吉建速神社・八剱社(須成神社)周辺、蟹江川(愛知県海部郡蟹江町須成門屋敷上1363)
  • 保護団体:須成文化財保護委員会
  • 問合せ・アクセス:蟹江町教育委員会等。飾橋から天王橋にかけての蟹江川沿いが観覧の中心

周辺の見どころ

須成神社のすぐ近くには、蟹江山常楽寺龍照院があります。本尊の木造十一面観音立像は国の重要文化財で、60年に一度御開帳される秘仏ですが、毎月18日(1・2月を除く)にはガイドボランティアの協力で公開されており、境内には巴御前ゆかりの大日堂や秀吉お手植えと伝わる大銀杏もあります。

蟹江町は木曽川や庄内川の伏流水に恵まれ、江戸時代から明治にかけて酒造りが盛んな土地でした。今も蟹江川沿いには造り酒屋が残り、清酒の蔵元を訪ねれば、水郷の町・蟹江が育んだ酒造文化に触れることができます。祭りの前後にあわせて訪ねたい見どころです。

須成地区には、若き織田信長が清洲攻めの際に通ったと伝わる「信長街道」が残り、道沿いに寺社や酒蔵が点在します。昔ながらの狭い道を歩けば、戦国期の武将たちが駆け抜けた歴史のロマンを感じることができ、祭りとあわせて尾張の古い町の風情を味わえます。

関連情報

  • 開催月:8月(宵祭・朝祭。祭事全体は7月初旬〜10月下旬)
  • 地域:愛知県海部郡蟹江町須成
  • 神社:冨吉建速神社・八剱社(須成神社/祭神は素盞鳴尊ほか)
  • 起源:疫病退散を祈願する牛頭天王(天王)信仰に由来する川祭り(約400年の歴史)
  • 別称:100日祭り(一連の祭事が約100日に及ぶことから)
  • 文化財:2012年に国の重要無形民俗文化財に指定、2016年にユネスコ無形文化遺産「山・鉾・屋台行事」に登録

出典・関連リンク

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