概要

飯田町燈籠山祭り(いいだまちとろやままつり)は、石川県珠洲市飯田町に鎮座する春日神社の例大祭で、毎年7月20日・21日を中心に行われる能登半島を代表する夏祭りです。能登半島の最先端に位置する飯田町に約四百年にわたって受け継がれてきた祭礼で、神事としては「おすずみ祭り」と呼ばれています。祭りの華は「燈籠山(とろやま)」と呼ばれる巨大な山車で、その圧倒的な高さと絢爛さが、能登の夏の到来を告げる風物詩として広く知られています。

この祭りの最大の特徴は、高さ約十六メートルにもおよぶ燈籠山の頂に、約六メートルの巨大な人形を掲げて町なかを曳き回す点にあります。人形は毎回作り替えられ、時代を映した題材が選ばれてきました。神様を夕涼みにお出まし願うという素朴な信仰から始まり、時代とともに豪華絢爛な山車行事へと発展した歴史を持ち、珠洲市指定無形民俗文化財として大切に守り伝えられています。

歴史と由来

飯田町燈籠山祭りの起源は、江戸時代の寛永年間初期、およそ1625年頃に遡ると伝えられています。土用入りの暑さがはなはだしい頃に、春日神社の御祭神である天児屋根命(あめのこやねのみこと)をはじめとする七柱の神々に、夕涼みにお出まし願ったのが祭りの始まりとされています。この「神様の夕涼み」という発想が、神事名「おすずみ祭り」の由来そのものとなっています。

祭りの草創期には、氏子の人々が高張提灯やデンガク燈籠に灯りをともし、大勢で賑やかに供奉して神社への送迎を行ったと伝えられています。この燈籠を掲げた行列が、時代とともに豪華絢爛に発展し、やがて「燈籠山」と呼ばれる巨大な山車へと姿を変えていきました。祭りの名の由来である燈籠が、そのまま山車の起源につながっている点に、この行事の歴史の一貫性が見て取れます。

明治初期の頃、飯田町は七町内から成り(現在は八町内)、すべての町内が燈籠山を出していました。時代の世相を反映した人形題材が多く選ばれ、兵隊など軍事色の濃い人形も作られたといいます。各町内が競い合うように制作したため、からくりで動作する人形や、人形の出来栄えを競う評議審査まで行われていたと伝えられ、町を挙げた祭りへの熱意がうかがえます。

大正時代に入ると、町内への電線架設に伴って山車が電線にかかるようになり、人形を掲げたままの運行が難しくなりました。人形は次第に作られなくなり、代わりに山車の前に舞台を組んで踊りが興じられ、子供踊りが盛んになっていきました。しかし昭和五十八年(1983年)に飯田町燈籠山祭り保存会と飯田町祭礼委員会が発足し、燈籠山が正式に復活します。近年は電線の地中化も一部進み、また能登半島の震災や豪雨といった困難を乗り越えて祭りを継承しようとする地域の強い思いが、この伝統を今日へとつないでいます。

見どころ

高さ約十六メートルの燈籠山 祭り最大の見どころは、頂に約六メートルの巨大人形を掲げた高さ約十六メートルの燈籠山です。町なかを練り歩くその姿は圧巻で、能登半島の祭礼のなかでも屈指の巨大さを誇ります。二年に一度、飯田わくわく広場で人形が制作され、時代を映す題材が選ばれるため、訪れるたびに異なる人形に出会えるのも魅力です。

榊神輿による神様の渡御 この祭りでは、一般的な神輿ではなく「榊神輿」と呼ばれる白木造りの台車に六尺ほどの榊を立て、それを神籬(ひもろぎ)として神様がお出ましになります。海岸近くに設けた御仮屋を御旅所とし、夕刻に渡御が行われる独特の形式は、他の華やかな山車行事とは異なる厳かな信仰の側面を伝えています。

大祓詞を奏上する禊・祓の神事 御旅所での神事では必ず大祓詞(おおはらえのことば)が奏上されます。海辺へのお出ましと大祓詞の奏上は、まさに神様と氏子の禊・祓を表しており、これが「おすずみ祭り」の特徴を最もよく示しています。夕涼みという素朴な側面の根底に、罪や穢れを祓う信仰が深く根づいている点に、この祭りの精神的な奥行きがあります。

二日間にわたる巡行 祭りは7月19日の前夜祭に始まり、20日には本祭として榊神輿渡御と燈籠山・山車の巡行が行われ、21日には氏子全域への燈籠山巡行が斎行されます。二日間かけて町を巡る燈籠山の姿は、飯田町の夏そのものであり、地域の人々の一年の高揚が凝縮された時間となっています。

復活と継承にかける町の熱意 大正期に一度は姿を消した人形が、昭和後期の保存会発足によって復活を遂げた歴史は、この祭りへの町の強い愛着を物語ります。近年の震災や豪雨を乗り越えてなお巡行を続けようとする地域の姿勢は、伝統行事が単なる観光資源ではなく、人々の暮らしと誇りの核であることを示しています。

開催情報・アクセス

  • 開催地: 石川県珠洲市飯田町
  • 会場: 春日神社および飯田町内、海岸近くの御旅所
  • 開催日: 毎年曜日に関係なく7月19日(前夜祭)・20日(本祭)・21日(氏子全域巡行)
  • 主な神事: 榊神輿渡御、燈籠山・山車巡行、御旅所での大祓詞奏上
  • 文化財指定: 珠洲市指定無形民俗文化財
  • アクセス: 能登半島最先端の珠洲市飯田町。金沢方面から車で能登方面へ北上

周辺の見どころ

飯田町のある珠洲市は能登半島の最先端に位置し、三方を海に囲まれた自然豊かな地域です。日本海に面した海岸線が続き、燈籠山祭りの御旅所が設けられる海辺の風景は、この土地の暮らしと信仰が海と深く結びついてきたことを物語ります。夏の珠洲は数多くの祭礼が続く時期でもあり、燈籠山祭りはその幕開けを飾る行事として位置づけられています。

能登半島一帯は、巨大な奉燈「キリコ」を担ぐキリコ祭りで知られる祭礼文化の宝庫であり、日本遺産「灯り舞う半島 能登」の構成要素としても注目されています。飯田町燈籠山祭りもこの能登の祭礼文化の一翼を担っており、地域を巡れば夏の間に多彩な祭りに出会うことができます。灯りと山車をめぐる能登独自の信仰世界を体感できる土地です。

また能登半島は、独特の里山里海の景観と伝統的な暮らしが受け継がれてきた地域として広く知られています。海の幸に恵まれた食文化や、素朴で力強い祭礼が息づく町並みは、訪れる人に日本の原風景を思わせる情趣を伝えます。燈籠山祭りの見学とあわせて、能登の自然と文化をゆっくり味わうことができます。

関連情報

  • 開催月: 7月(19日前夜祭・20日本祭・21日巡行)
  • 所在地: 石川県珠洲市(中部・北陸地方)
  • 会場: 春日神社
  • 種別: 春日神社例大祭「おすずみ祭り」・山車行事
  • 文化財: 珠洲市指定無形民俗文化財
  • 特色: 起源は寛永年間初期(1625年頃)・高さ約16mの巨大山車「燈籠山」・榊神輿と大祓詞奏上の神事

出典・関連リンク

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