概要

日立風流物(ひたちふうりゅうもの)は、茨城県日立市宮田町の神峰(かみね)神社の祭礼で奉納される、巨大な山車を用いたからくり人形芝居です。高さ約十五メートルにもおよぶ五層の山車の上で、操り糸によって精巧なからくり人形が歴史物語を演じるという、全国でも類を見ない壮大な行事として知られています。その規模の大きさと仕掛けの巧みさから、日本を代表する民俗文化財の一つに数えられ、ユネスコ無形文化遺産にも登録されています。

この行事の最大の特徴は、山車がただ曳かれるだけでなく、上部の五層の屋形が中央から両側へと開き、それぞれが舞台となってからくり人形芝居を繰り広げる点にあります。人形の早がえりなど精巧な仕掛けが観客を驚かせ、村人たちが農作業のかたわら磨き上げてきた技術の粋が凝縮されています。約三百年にわたって地域の人々の手で守り伝えられてきた、祈りと娯楽が一体となった稀有な祭礼です。

歴史と由来

日立風流物の起源は、元禄八年(1695年)に遡ります。水戸藩二代藩主・徳川光圀の命により、神峰神社が宮田・助川・会瀬の三村の鎮守となった際、宮田村の氏子たちが無病息災・五穀豊穣など日々の豊かな暮らしを祈願して山車を造り、祭礼に奉納したのが始まりとされています。地域の守り神を迎えるにあたっての素朴な祈りが、この壮大な行事の出発点となりました。

山車に人形芝居を組み合わせるようになったのは、享保年間(1716〜36年)からといわれています。風流物が起こった江戸中期は人形浄瑠璃が一世を風靡した時代であり、その影響を受けた村人たちが農作業のかたわら工夫を重ね、人形作りの技術を自分たちのものにしていったと考えられています。都市の芸能文化が農村の祭礼に取り込まれ、独自に発展していった過程がここに見て取れます。

日立風流物は、日立市宮田町の四つの地区(東町・北町・本町・西町)に、それぞれ一台ずつ計四台が継承され、村人たちの大きな娯楽ともなりました。この四町が出来栄えを競い合い、明治中期から大正初期にかけて改良を重ねた結果、現在見られる五層構造へと進化し大型化しました。町同士の競い合いという原動力が、この行事を全国屈指の規模へと押し上げたのです。

昭和に入ると、太平洋戦争へと向かう世相を受けて昭和十一年(1936年)以降公開が中断し、昭和二十年(1945年)七月には米軍の焼夷弾攻撃により山車四台のうち二台が焼失、一台が半焼、人形の首も約七割を焼失するという大きな被害を受けました。しかし昭和二十九年(1954年)に保存会が結成されて復興の機運が高まり、昭和三十三年(1958年)に一台が復元されて二十一年ぶりに公開されます。昭和三十四年(1959年)には山車類として全国で初めて国の重要有形民俗文化財に指定され、昭和五十二年(1977年)には四台揃って国の重要無形民俗文化財に指定されました。さらに平成二十一年(2009年)にユネスコ無形文化遺産に登録され、平成二十八年(2016年)には「山・鉾・屋台行事」として拡張登録されています。

見どころ

五層の屋形が開くからくり山車 最大の見どころは、高さ約十五メートルの山車の上部にある五層の唐破風造りの屋形が、中央から両側へと開いて舞台となる構造です。閉じた状態からせり出すように展開し、各層で場面の異なる人形芝居が同時に演じられるさまは圧巻で、他の山車行事には見られない独創的な仕掛けとなっています。

操り糸によるからくり人形芝居 各層の舞台では「源平盛衰記」「忠臣蔵」などのからくり人形芝居が演じられます。操り糸の操作によって人形が動き、なかでも人形が一瞬で別の姿へと変わる「早がえり」は観客を大いに驚かせます。人形浄瑠璃の影響を受けた精緻な操りの技が、山車の巨大さと相まって強い印象を残します。

全国有数の大型山車 現在の日立風流物は、高さ十五メートル、幅三〜八メートル、奥行七メートル、重量五トンにおよぶ全国有数の大型山車です。この巨体を氏子たちが人力で運行し、組立てから製作、屋形の展開操作、人形の製作操作、鳴物演奏まですべてを地域の人々の手で行う点に、民俗文化財としての価値があります。

七年に一度の四台総出 通常は毎年四月上旬の「日立さくらまつり」に四町の廻り番で一台が公開されますが、七年に一度、神峰神社大祭礼に併せて四町の山車すべてが一堂に公開されます。四台の巨大な風流物が揃い踏みする光景は滅多に見られない特別なもので、地域の人々にとっても大きな節目となっています。

地域の手で受け継がれる技 山車や屋形の組立て・製作、からくり人形の製作と操作、山車の運行、鳴物演奏に至るまで、すべてが神峰神社の氏子(現在は日立郷土芸能保存会の会員)たちの手で担われています。専門の職人にゆだねるのではなく、地域の人々が技を継承し続けている点に、この行事の民俗文化としての奥行きが表れています。

開催情報・アクセス

  • 開催地: 茨城県日立市宮田町
  • 会場: 神峰神社および日立市中心部(日立さくらまつり会場)
  • 開催日: 毎年4月上旬の日立さくらまつりで4町廻り番により1台公開、7年に1度は神峰神社大祭礼で4台全公開
  • 演目: 「源平盛衰記」「忠臣蔵」などのからくり人形芝居
  • 文化財指定: 国指定重要有形民俗文化財(1959年)・国指定重要無形民俗文化財(1977年)・ユネスコ無形文化遺産(2009年登録、2016年拡張登録)
  • アクセス: JR常磐線日立駅周辺。日立さくらまつりの会場一帯

周辺の見どころ

日立風流物が公開される日立さくらまつりの会場となる平和通りは、日本さくら名所百選にも選ばれた桜の名所として知られています。約一キロメートルにわたって桜並木が続き、満開の桜のもとで巨大な風流物が公開される春の光景は、この地ならではの華やぎに満ちています。祭りと桜が一体となった景観が、多くの花見客と祭り見物客を集めています。

日立市は太平洋に面した工業都市として発展した歴史を持ち、海岸沿いには美しい景観が広がります。市内には海を望む展望スポットや、地域の産業の歴史を伝える施設が点在し、風流物の見学とあわせて日立のまちの成り立ちに触れることができます。神峰神社は市街地を見下ろす高台に鎮座し、この地域の信仰の中心となってきました。

茨城県北部の日立市周辺は、海と山の自然に恵まれた地域でもあります。海岸線の景勝地や近郊の山々など見どころが多く、風流物という壮大な民俗行事を核に、県北の自然と文化をあわせて巡ることで、この地域の魅力を存分に味わうことができます。

関連情報

  • 開催月: 4月上旬(日立さくらまつり)・7年に1度の神峰神社大祭礼
  • 所在地: 茨城県日立市(関東地方)
  • 会場: 神峰神社および日立市中心部
  • 種別: 山車行事・からくり人形芝居
  • 文化財: 国指定重要有形民俗文化財・国指定重要無形民俗文化財・ユネスコ無形文化遺産「山・鉾・屋台行事」
  • 特色: 起源は元禄8年(1695年)・徳川光圀の命による・高さ約15mの5層山車・操り糸のからくり人形芝居

出典・関連リンク

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